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2018年6月23日土曜日

「忖度」の地勢学

「忖度」。

昨年の流行語大賞にもなったが、
こんな言葉を役所で一般向けの文書に書いて起案したとしたら、
特に今では決裁段階のどこかでドヤしつけられるであろう。

「慮って」とか「相手の意思に配慮して」に書き直せ!
とやられるのがオチだ。

どうも、「忖度」は、
昨年の森友・加計問題発覚以来、本来の意味にはなかった、
「相手が表に出したくないことについて」という冠が付いて、
「相手が表に出したくないという意思を慮って」
とか
「相手が表に出したくないだろうことに配慮して」
という風に取られるようになった。
















しかし、この忖度という行為は、実社会においては現実に重い意味を持ち、
知らず知らずのうちに、多かれ少なかれ為されていることだ。

筆者がある団体において、上から数えるよりも、
下から数える方が近い地位にいたときのこと。
重大事案で部長級の決裁をもらう事前協議に行ったときのことだ。

この部長というのが、頭はいいが感情を極端に表に出す、
いわゆるカミナリ部長でというやつで、部下は常に戦々恐々としていた。

案件についていきなり解決策を提示すると
「お前、この考えを俺に押し付けるんか!!!」・・・①
と怒りだしたという伝説があり、
たいていは当て馬的な腹案を二、三用意していて、
総合的に検討した結果これにならざるを得ませんでした
という論法で持ちこまないと、揉める元になるという暗黙の了解があった。

もっとも、これは役人世界ではよくやられている話で、
逆に上の方から
「これ以外に解決策はないのか?」
と問われることはままある話で、
これを自分の思う方向に持っていくのが役人の腕の見せ所となる。

で、筆者、その問題を上奏した後、
「どういたしましょうか?」・・・②
と切り出した。その部長、
「どうしたらええんや?」・・・③
と至極当たり前の回答だったので、
待ってましたとばかりに、こちらの方針を説明し、
了解を得て、その場はめでたしめでたしだったのだが、
後で直属の課長に呼ばれ、

「ああいう場では、
『どういたしましょうか?』などと聞くのは失礼だ。
答えられないと恥をかかすことになる。

『これこれの問題が起こっておりますので、
こちらではこのように対処しようと思っておりますのですが、
いかがでございましょうか?』
と切り出すべきだ」・・・④

と説諭された。


この案件では、
①の伝説が恐怖伝説に変わり、筆者の深忖度で、
これほどの人なら面前で案件を述べられたら
当然対処案も持ってきていることを承知しているはずだ。

②が出れば当然③と出ると読んでいたのが図星だったのだが、
言われてみれば、④も一理ある。

ただ、これが度重なると、結構こわいことになる。
同じことだから、もういちいちお伺いを立てることもあるまい、
と同じ判断で自分の権限で処理したら、
俺に報告がなかったと上の者が怒り出す。
極端な場合、相手のために先を読んでしたことが、
逆恨みを買うことすらある。・・・



フランスのルーブル美術館に古代エジプトの書記の坐像がある。

なんで書記のごときが像にまで、
と初めてこの現物を見たときに思ったのだが、
古代エジプトの治世を知るに連れ、この役割はばかにできないことを悟った。

古代エジプト時代、王が何かを部下に命令すると、後ろに控える書記が
「そのように決め、そのように行え」
と宣した。

それは、おそらく現代の法律や政令の公布と同じであり、
かつ、書記はそのことを古代エジプト文字を使って記録に留めたのであろう。

これにより、⑤のようなトラブルを防いだのだ。
王は同じような案件が来た場合、この書記に過去の処断記録を出させ、
前と違った判断を出さないように、
もし、違った判断を出すとすれば、日本の最高裁の大法廷判決のように、
前の判断を覆した理由を詳細に記録する必要があったのであろう。

当然、書記は、王が前に出した「そのように決め、そのように行え」の
記録に反するような言動をした場合、
「それは前に下した判断と齟齬があります。」と進言する権能を
与えられていなければならない。相当の権限だ。
だからこそ、王のミイラに匹敵するような坐像を作って、
その権威を表象したのだろう。

さて、ここで登場するのが金正恩。さして政治・行政の経験もなかった
若造の金正恩が首領の座についたとき、
粛清された張成沢(チャン・ソンテク)のような身内が
⑤のような金正恩の意思をいい意味で忖度して、
先読み補佐役をしてくれたのは非常に有難かったはずだ。

極論すれば国内・国際社会にナメられずに済んだ。

ただ、人間、余程のバカでなければ最低1年、事をやってみると、
大体次の年は前年の先例を思い出しつつ自立し始める。

それでも、金正恩の場合、張成沢のような経済派官僚が身内にいて、
中国や韓国との合弁企業が順調に活動を始め、
それなりに国家財政を潤しはじめたとなると、
順調に行けばそれは、忖度の成功であって、
正恩も自分の手柄になることだし、悪い気はしなかったはずだ。

しかし、張成沢は忖度の度を越して、
⑤の逆恨みを買うことになってしまった。

筆者、この張成沢のそれなりの経済政策の成功と、
まずまずの国家運営の補佐状況を見るにつけ、金正恩の取った仕打ちは、
「自分に報告がなかった、知らされなかった」うちに事が運ばれた、
程度の怒りではすまない異常さを感じ取っていたが、
案の定、最近、脱北高官によりその実態が暴露された。
 
張成沢は、自分の経済政策の成果を拡大路線に乗せるため、
いわゆる「39号室資金」、
日本であれば内閣官房機密費に該当する資金に
手を付けようと画策を始めたのだ。

この「39号室資金」、その正体はかなり汚いカネだ。

麻薬や覚せい剤の密売から始まって、IT技術を駆使した、
例のバングラディシュ中央銀行からの8100万ドルかすめ取りまで、
この資金は、たとえ身内でも手を付けるには余りに汚く危険で、
かつ、それは金正恩固有の秘密資金だ。

いくら身内の最側近とはいえ、これに手を出され始めたとなると、
正恩からすれば、まさに国家反逆罪。
即刻処刑、銃殺も無理はない。

ソンテクのソンタクが過ぎて逆恨みの末の粛清。
あまりいい洒落とは思えない。

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