自己紹介


はじめまして。近藤紀文と申します。
当ブログにご訪問頂き、ありがとうございます。

このブログでは演奏会(ライブやコンサート)参加の履歴や
日常生活で思ったことについて、様々な視点で書いていきます。

どうぞよろしくお願いいたします。


2021年6月10日木曜日

余はいかにしてワグネリアンとなりしか ー運命の女神ノルンのつむぐ綱は未だ切れず、筆者とつながっている一 その6

・黄昏のワグネリアンから、若きワグネリアンに、言上奉る。
中学時代、それとは知らずに、
初めて『タンホイザー』の大行進曲を聞いて、35年余。

20歳で、 スイス・ルツェルン湖のほとりにあるトリープシェンの家、
そして、バイロイト祝祭劇場、バイロイ トの棲家ヴァーンフリート荘、
その裏手に仲良く眠るヴァーグナーと妻・コジマの墓詣でと、
夢にまで見たヴァーグナー巡礼をして、早30年。

黄昏の近付いたワグネリアンから、少壮のワグネリアン に、
老婆心ながら、忠告を申し上げておく。

1。間違っても、ヴァーグナーを老後の楽しみに、などと考えないこと。

そのために、レコード全集も買った。
レーザーディスク(以下LDと略す。)が出れば、
やっと映像が見られると、金に糸目を付けず買った。

DVDが出れば、それも買った。
DVDともなれば、 コストは信じられないくらい安い。
しかし、無念。体力が持たない。

初期のオペラ群なら救いようもあるが、後期の、
それも歌い手のモーションが極端に少ない
『トリスタンとイゾルデ』や『指輪 4部作』を、
延々と、数時間座って見続けることができるか、君は?

これは、もはや、体力の勝負であって、知力は二の次だ。
老境に入っては無理。

若者よ。若いうちに、大作は見ておけ。

2.ナマモノを見るなら、歴史にこだわらず、
なるべく新しい施設で見ること。


レコード時代を長く経験した、筆者のような黄昏世代にとっては、
ヴァーグナーを見ることは、
すなわち、ナマモノの舞台を見ることであった。

なにせ、映像ソフトがない。

LDが出るようになるまでは、ヴァーグナーを見るためなら、
大阪あたり行くのは、なんでもなかった。

公演回数も少なく、コストも高かったから、
ヴァーグナーの舞台を見たことは、結構、ステイタスになっていて
公演する側としても、金に糸目を付けないワグネリアンは、
結構おいしいターゲットであったのだろう。

映像ソフトがない時分は、それなりに客の入りが良かったのか、
関西以西も、ヴァーグナーをひっさげて、
西欧の歌劇場が引っ越し公演しに来ていた。

私の記憶では、昭和59年に西ドイツのハンブルク州立歌劇場が
『ローエングリン』を出し物に、
大阪フェスティバルホール、そして福岡まで足を伸ばしたことがある。

しかし、その後は、LDによる映像攻勢、
おまけにバブル時代に突入とあって、外国の名門歌劇場が、
わざわざドサ回りまでしなくとも、東京に居座っていれば、
客の方から金に糸目を付けずに飛んで来てくれる時代となり、

外国の歌劇場が関西以西でヴァーグナーを上演したのは、
昭和62年、大阪フェスティバルホールでのバイエルン州立歌劇場の
『ニュルンベルクのマイスタージンガ ー』が最後となった。

その代わり、国内での歌劇の上演施設は目を見張るばかりに増え、
名古屋の愛知県芸術劇場、滋賀の琵琶湖ホール、
そして第2国立劇場と、4面舞台の備わったホールが続々誕生。

いい時代になったものだ。

しかし、ヴァーグナーの、動きが少ない長丁場の出し物
(と言えば、やはり、『トリスタンとイ ゾルデ』や『指輪4部作』に尽きるが)、
これだけは、東京の独壇場だ。

ここで忠告。
あなたが、純粋にヴァーグナーの作品を極めたいなら、
なるべく、最新の設備 の整った、
新しい劇場で催される、それを見ること。

逆の立場から考えよう。

西欧の歴史ある歌劇場に行く。
ロビーのシャンデリアに迎えられ、
ひと たび場内に入れば、ロココ風の金細工。

音楽マニアなら何としても出かけたい観光名所だが、
これ は、冗談でなく、観光名所であって、
中で公演を見るなら、観光に来たと割り切って見ないと、
特 に、ヴァーグナーの作品のような、長時間を要し、
ストーリーのややこしい作品を、
気を入れて見 ようとするなら、えらい目に遭う。

まず、空調。昔の建物など、
そんな事などろくろく考えず、
ひたすら、飾り付けにのみ金をかけ た劇場が多い。

長時間、締め切った状態でヴァーグナーなど上演されようものなら、
酸欠状態とな り、頭は朦朧、汗はたらたらの状態となる。

特に、昔の寒冷気候を前提に建てられた建物が、
地球 温暖化の影響で、最近の夏の欧州では、
40度を超えることなど珍しくなく、
天下のバイロイトで も、音楽祭中、卒倒者が続出という状態とか。

その上、字幕はない。

日本での外国オペラ公演に字幕は当たり前だが、
さすがに、日本語の字幕 を出してくれる外国の歌劇場は未だ無いはずだ。
(ウィーン国立歌劇場では、
前の座席の後ろの部 分に、英・独2カ国語の字幕が出る。)

昔は、そのため、外国でオペラを見るともなれば、
日本で 対訳を買ったりして、万全の態勢を整えて、
現地に飛んだものだったが、
今では、国内での字幕の 慣れで、手ぶらで行ったりすると、
字幕なしのヴァーグナーに挑戦することになる。

さ て、あなたは、耐えられるかな?

さらに、最新の設備を備えた新しい劇場は、
座る椅子も、人間工学的に考えられたものを使って おり、
長時間座っても疲れない。

用心のため、幕間で、多少そこらをうろついて、
運動でもすれば、 何とか体は持つ。

しかし、ギンギラの装飾に彩られた名門歌劇場の椅子の正体は、
人間工学などかけらも考えられ ていない、木の椅子だ。

長時間座っていると、おしりの血の巡りが悪くなり、
壊死寸前になる。

バ イロイトなど、慣れた人は、
空気座布団や空気椅子を持って行くというが、
これは決して誇張では ない。

バイロイトではないにせよ、筆者も木造椅子で長時間座ると、
どのような地獄が待っている か、
ウィーンやプダベストの歌劇場で体験している。

「指輪4部作」を見る最終日など、
肉体的に は拷問だ、という人もいるに違いない。

ということで、外国のオペラ劇場での観劇は、
最高に楽しいことは認めるが、要領よく見ないと、
一転、このような地獄が待ち受けている。

本当に、作品だけを楽しみ、理解しようとするならば、
国内の最新設備の歌劇場で、
人間工学的 に考えられた椅子に座って、
整った空調設備の新鮮な空気で、脳みそに酸素を充満させて、
字幕付 きで、じっくりとご覧になることを、切にお勧めする。

<続く>

0 件のコメント:

コメントを投稿